“年金倒産”その1
「年金倒産」(平成23年11月15日発行)という本が出版されました。著者は、宮原英臣(オーヴァル・リスクマネジメント・サービス日本支社代表)という方で、小倉高校→京都大学経済学部という履歴なので、北九州の方だと思います。
冒頭、“ある倒産”という題で、兵庫県乗用自動車厚生年金基金の加入社であったタクシー会社の倒産の話から始まっています。“倒産の最大要因は、盲点ともいえる意外なものだった。”“まさに「連鎖倒産」のドミノ倒しが始まろうとしていた。”“「今を生きる」会社や社員たちが手にすることのない「未来の金」につぶされる。”これが「年金倒産」の姿なのだ、という序章です。
第1章身動きとれぬ“蟻地獄”~厚生年金基金戦慄のシナリオ~
第2章厚生年金基金が追い込まれた理由~底の抜けたバケツ
第3章あなたの加入する厚生年金基金は大丈夫?
第4章厚生年金基金の終着点
第5章年金基金の赤字スパイラル
第6章“活きる”ための福利厚生へ
各章の題名だけで、ある程度内容が想像できると思います。年金基金のことをここまで掘り下げて書いた本は初めてではないかと思います。
第2章では、厚生年金基金の構造を2つのバケツに例えて説明しています。上のバケツが事業主が負担する加算部分で、下のバケツが事業主と従業員が負担する代行部分。事業主が上のバケツに水を注いでも上のバケツの底が抜けてるので、下のバケツの穴埋めにしかならない。成熟度(受給者/加入者の割合)が上がった基金では、下のバケツが減る一方なので、その不足を埋めるためだけに事業主が埋めていかねばならない構図がよくわかります。
日本の厚生年金は、昭和17年に軍需工場の男性労働者から保険料を徴収した労働者年金保険から始まったそうです。この時点での財政方式は積立方式でした。ところが、戦後のインフレから、どんどん増えていく年金支給額に保険料が追いつかなくなって、賦課方式を取り入れることになった。賦課方式を取り入れることで、積立金に対する考え方が甘くなって、年金の大盤振る舞いで積立不足が加速していくことになったのです。
この賦課方式は、高齢者を現役世代が支えるという仕組みなので、高齢化が進むと世代間の負担と給付のアンバランスが大きくなり、今の問題になっているのです。こうして厚生年金本体の経緯を読んでくると、明らかに厚労省の判断ミスと言わざるを得ません。
一方、基金の方は「積立方式」です。本家の厚生年金では積立方式に無理が生じて都合よく賦課方式にしたのに、厚生年金基金の財政方式は積立方式のままであり、積立不足を解消しろと言われるのはおかしな話です。本来は賦課方式で扱われるべき代行部分が、基金だけ積み立て方式であるという矛盾があるのです。