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高炉-炉前の生き様

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高炉-炉前の生き様
高炉の下部のところに「出銑口」いう溶鉄(とスラグ)が出てくる穴があります。この穴には粘土のような耐火物を埋め込んでおいて、出銑(溶けた銑鉄を出すこと)の時に、その穴に鉄の棒をハンマーで叩いて突き刺していきます。今は開孔機をいう装置があるのでまだいいが、ハンマーで叩くのは大変な体力と熟練が必要です。
 長い鉄の棒をハンマーで突き刺すということは、木材に釘を打つのと同じように、鉄の棒を支える人と、ハンマーを叩く人が必要です。ハンマー自体が10キロくらいはありますから、連続で振るのも大変で、餅つきのように左右から2人がかりで叩いたりしたものと思われます。
 出銑口に詰める耐火物は、軟らかすぎると溶鉄が出てきてしまうし、高温にさらされて硬くなりすぎると、このハンマー打ちが大変です。これに時間を要してしまって、高炉がおかしくなるということは、よくあったことです。
 「田中熊吉さん」も、31歳のときに、この作業中にハンマーが弾みで左目にあたって失明してます。
 想像してみてください。1500度の溶けた鉄が出てくる穴です。作業環境がいい筈はありません。作業中に鉄が出てくることだってあります。水であれば、「ちょっと濡れちゃった」で済むかもしれませんが、溶けた鉄ではそうもいきません。
 誤解がないように言っておきますが、現在は機械化されてますから、暑い以外は作業的にとても安全になっています。しかし、この頃の炉前作業を想像すると、小さな高炉に何人もかかって出銑作業や、出銑口に耐火物を詰める作業を行っている姿は、「勇ましい男の仕事」と言えばかっこいいが、大変な苦労があったことと思います。
 昔から、「炉前が高炉の生死を左右する」とまで言われています。そんなプライドを持った男たちの生き様が、僕は好きでした。
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